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Lolita/ロリータ(スタンリー・キューブリック監督のアメリカ観を想像する) [映画のこと(レビュー紛いの文章)]

 「ロリータ」は監督が渡英在住するようになってから初めて手がけた映画だったと思う。後の傑作、2001 a Space Odessey(2001年宇宙の旅)に至っては遂に「神の視点」を獲得してしまったスタンリー・キューブリックも本作やその次作あたりまではときたま人間くさい語り口が断片的にではあるが見られたように思う。

 ひずんだ恋愛映画のようでありロードムービーのように見えなくもないこの映画にはアメリカの、ということはハリウッドの映画製作システムには結局馴染めず、それが理由であるかどうかは別としても生活の拠点としてのアメリカからは出て行ってしまって終生戻ることのなかったこの人のアメリカ観やハリウッド観が所々にシニカルに散在している。

ロリータ

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前回もそうだったが、このリンクを貼るためにAmazon.comを検索するのはどうも・・・・

 

 映画監督のアメリカ観なのか、それとも原作者のものなのかは原作を殆ど覚えていない私には区別がつかないがここでは前者の、と仮定して映画を見ていて気付いたことを箇条書きにしてみたい。

(1)主人公はフランス人で、ボストン近郊の大学で仏文学の教官として渡米してきた作家である。ヒロインと邂逅することになる下宿先での未亡人との会話にはアメリカ人のヨーロッパ、特にフランスに対するコンプレックスが大変皮肉っぽく描かれている。この未亡人は主人公に対してまんざらでもない感情を最初から隠そうとしない。そして台詞のどこかで(確か自分の知人や近所づきあいのある人たちを挿していたと思う)ある人たちをBlue Blood Bostonianと呼ぶ。にわか覚えではそう呼ばれる人たちとはフランス人貴族を祖先に持つマサチューセッツ州在住のアメリカ人達で、いわゆる旧家として現在でも気位の高い階層の人々らしい。私のLDの字幕では「上品な方々」と和訳されているが現地ではもっと深い意味を持つ呼び方のようだ。

(2)室内の描写では必ずテレビが置いてあり、ヒロインのロリータはいつも紙コップに入ったコーラをがぶ飲みしながらフライドポテトを食っている。ロードムービー的な後半の展開では郊外の幹線道路沿いに並ぶ メガストア的な商圏の風景が何度も繰り返し背景として描かれる。1960年代初頭のこの風景は現在、日本で生きている私のような者にとっては結構目新しく、幾分違和感を覚える風景でもあるのだが同時期のアメリカ映画でこの風景が描かれているものを私はまだそれほど沢山見ていない。キューブリックの視点は既にヨーロッパ人のものになりつつあり、異国の習慣や風景としてこれらが捉えられていたということだろうか。

(3)主人公が恋いこがれたロリータを入れあげさせ、ついには嫉妬の余り撃ち殺されるクィルティをピーター・セラーズが演じる。この人物の描かれ方は皮肉と悪意に満ちている。まず職業がテレビ脚本家で当時の映画人にとってはまさに目の上のたんこぶだ。ものごしは万事に軽薄で調子が良く、すばしっこくて抜け目なく狡猾、相手構わず馴れ馴れしく話しかけ、ペラペラと間断なく早口でまくし立てながらどこか粘着質で腹に一物ありそうなムードがつきまとう。きっとキューブリック本人の一番いけ好かないであろう人物像として設定された演技のように思える。見方を変えると、そんな風に振る舞い続けていれば、あるいはキューブリックが何とか居場所を与えられていたかもしれないハリウッド映画界に生息する典型的な人物像かもしれない。

 ニューヨークを映画製作の拠点にしていたニューヨーク生まれのユダヤ系というキューブリックの出自は、映画活動においてはハリウッドのアウトサイダーであり、民族的な立ち位置としてはそれこそBlue BloodやWASPにとって「下層の者」としか映らないことにこの人はかなり自覚的だったのではないかと私は見ている。恐らく、雇われ監督としてハリウッド・システムの1パーツに徹して監督した全作「スパルタカス」を製作する過程で何か内面的な転換点を経験したのではないだろうか。

 だからこの映画はスタンリー・キューブリックにとってアメリカやハリウッドに対する訣別でもあるのだろうと私は捉えている。 そう言えば時系列的には最後の場面である殺人シーンがオープニングにあり、次に過去からの経緯が順次進められていくプロットの構造はビリー・ワイルダー監督の「サンセット大通り」と共通する。

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ハリウッドのインサイド・ストーリー、この制作時期にしては珍しく何とも後味の悪い陰惨なエンディング、と、「ロリータ」の映画化を構想していたキューブリックはどこかで「サンセット大通り」を意識していたのではなかろうかという、これは私の実に根拠に乏しい推測だ。
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